糖質制限食に無効・拒否・挫折例が多くても、一向にすたれない原因・その1(蛋白質に糖質と同じカロリーがあることが納得できない)

  「糖質制限食には効果がない」、

という言葉で検索してこのブログにやって来る人、
そして、糖尿病など生活習慣病の患者さんで、こう訴える人が多いです。

また、一時的に効果があっても、
糖質(ご飯、パン、めん類などの炭水化物)が好きな人は途中で挫折しやすいですし、
それ以前に、糖質を減らすと聞いただけで、初めから拒否して実行しない人も多くいます。
(食事療法が必要な人のうち、
 糖質制限の説明をしても、初めから実行しない人が4割、
 実行しても糖尿病や高血圧などが治るという効果がない人が2割、
 というのが私の感触です)

糖質制限食が無効な原因は、

  「蛋白質は、体の筋肉や血液を作る原料」

という常識の意味を十分に理解せず、
蛋白質に、糖質と同じカロリーがあり、余分に摂ると脂肪に変わって貯えられること、
すなわち、

  「蛋白質が肥満の原因

であることが納得できず、

  蛋白質の摂取量を制限しない

からです。

今回の記事は、この「蛋白質が肥満の原因」であることを説明して、
糖質制限食(というとんでもダイエット)の退場を促すことにします。

糖質制限食がすたれない原因には、

  摂るべきカロリーが誤っているので面倒なカロリー計算をしても効果がない、

といった、従来のカロリー制限に基づいた生活指導のふがいなさもあるのですが、
それは、次回の記事で論じます。

 表. 糖質制限食・従来の生活指導の問題点と、その解決法
問題点の分類
 →影響
糖質制限食の問題点、利点 従来のカロリー制限に
よる生活指導の問題点
このブログで述べてき
解決法(下記参照)
無効:カロリー過多
 →治る機会を奪う
蛋白質の摂取量を制限しない 隠れ肥満
消費E/体重が低い人

1.「減らすカロリー」を体脂肪率から求める

実行困難
 →拒否、挫折
糖質が好きな人
 
 
 
糖質を含む食品を覚えるだけ
蛋白質が好きな人
野菜、栄養バランス
3食均等、禁暴飲食
運動
カロリー計算

2.蛋白質を推奨量以上摂取すれば、その他の制限は不要

 

3.簡便なカロリー減少・推定法

1.減らすカロリー: 今までの食事とのカロリー差に応じて、体重が減る→インスリン抵抗性下がる→その状態が維持できる限り糖尿病が治った状態が続く
2.蛋白質を推奨量以上摂取: 筋肉は痩せない→好みに合わせて、
蛋白質が好きな患者は、蛋白質を多く含む食品ばかりで、糖質0でもよい
糖質が好きな患者は、 蛋白質を推奨量まで減らすと、 糖質がかなり取れる
 例.糖尿病の食事療法1800kcal なら、毎日2合の米飯が食べられる
3.簡便なカロリー減少・推定法: 患者さんの学習・実行能力に応じて、アプリや栄養士の指導で、生活環境に合わせた方法を決める

では、蛋白質が肥満の原因であることを、次の項目に従って説明します。
話の全体像が分かりにくくなったら、ここに戻って確認してください。

  体蛋白は毎日壊れる
  蛋白質が壊れると、エネルギーが出る
  蛋白質が壊れてエネルギーが出るときには、ブドウ糖や脂肪が燃えない
  「摂った蛋白が壊れてエネルギーを出す」のは体蛋白への出入りを見ると分かる
  摂った蛋白が余ると、壊れてエネルギーを出すから、その分脂肪が燃えずに貯まる
  蛋白質を制限せずに糖質だけ制限しても、肥満・糖尿病は改善しない

体蛋白は毎日壊れる

蛋白質の所要量という言葉を聞いたことがあって、
それが1日に体重1kg当たり約1gだと知っている人も多いと思います。
(ただし近ごろは所要量でなく、推奨量といいます)

これは、体を構成している蛋白質が常に分解されていて、
それを補充するために必要な量のことですから、
体の蛋白質は1日にこの量だけ壊れていることになります。

ここで、蛋白質が壊れるというのは、
蛋白質がただアミノ酸にまで分解されることだけをいうのでなく、
そのアミノ酸からアミノ基が外され、尿素と後述する物質が作られ、
それらがすべて排泄されるまでを含めていいます。
これも「後述する物質」以外は、知っている人もいると思います。

蛋白質が壊れると、エネルギーが出る

ただ、これからの話は知らない人が多いので、少し注意して読んでください。

アミノ酸からアミノ基を外した残りの部分は、元素でいうと炭素、水素、酸素でできており、
これから、ブドウ糖や脂肪酸を合成することができます。

また、そのアミノ酸を原料にしてブドウ糖ができるものを糖原性アミノ酸といい、
脂肪酸ができるものをケト原性アミノ酸といいます。

量的なことをいうと、
4kcalの化学エネルギーを持つ蛋白質1gを原料にすると、
1gで4kcalを持つブドウ糖なら1gを合成することができるし、
1gで9kcalの脂肪酸なら4/9gが合成できることになります。

そして、そのブドウ糖や脂肪酸が酸化(酸素と化合させてエネルギーを出すこと。燃焼)されて二酸化炭素と水ができるときには、同じ4kcalのエネルギーを出します。
(高校の化学で習ったヘスの法則です)
また、先ほどの、アミノ酸から作られて排泄される「後述する物質」というのは、
この酸化でできる二酸化炭素と水だということになります。

アミノ酸の分解物がブドウ糖や脂肪酸を合成せずに、
その前の段階で酸化(燃焼)される分もあるが、
その際には、やはり蛋白質1gから4kcalの割合で、
(高校の生物で出た)TCA回路を経てエネルギーを出します。

数字で確認すると、
体蛋白量の全体は、体重の20%、1日に壊れる量は体重1kg当たり1gだから、
体重60kgの人には、12kgの体蛋白があり、1日60gの蛋白質が壊れ、
その時出るエネルギーが60×4=240kcal

蛋白質が壊れてエネルギーが出るときには、
ブドウ糖や脂肪が燃えない

さて、ここでよく考えてほしいのは、
こうやって蛋白質が分解され、エネルギーが放出されれば、
その分、ブドウ糖や脂肪酸を酸化(燃焼)せずとも、
生体が必要とするエネルギーが供給できるということです。

つまり、蛋白質が燃えた分だけ、ブドウ糖や脂肪酸を燃やさずにすむことになります。

この

  「蛋白質が酸化されて出るエネルギーの分だけブドウ糖や脂肪酸が燃えない」

ことは、後でもう一度述べるように、重要であるにもかかわらず、
これが分かるように書いてある教科書や論文の文章を私は読んだことがありません。

蛋白質・アミノ酸の代謝について書いてある文章も、
単に「炭・水・酸素の部分は酸化される」としか書いてなくて、
その時生じるエネルギーについて言及していないことが多いし、

かりに、エネルギーが生じると書いてあっても、
体に出入りするエネルギーの総和を考えて、
「その分、糖・脂肪が酸化されない(燃えない)」
ことが分かるように書いていた文章は今までありませんでした。

「摂った蛋白が壊れてエネルギーを出す」のは
体蛋白への出入りを見ると分かる

さて、次は、
壊れた蛋白質を補充する役割を持つ、食物から摂った蛋白質にも範囲を広げて考えます。

1日に摂った蛋白質が体重1kg当たり1gなら、ちょうど壊れた体蛋白を補充して、
不足も余剰も出ません。

この補充された蛋白質は、体蛋白になっているのだから壊れていません。
したがって、摂った蛋白質からエネルギーが産生されることはありません。

ただ、前の項目で壊れた蛋白、体蛋白、この項目で摂った蛋白を全部合算すると、
体蛋白の量は変わりませんから、
ちょうど、摂った蛋白が壊れてエネルギーが出たように見えるでしょう。

さらに、視野を体全体に出入りするエネルギーにまで広げると、
蛋白質のエネルギーに、糖質、脂質のエネルギーを加えた、
食物から摂ったエネルギーの総量が消費エネルギーに等しい時は、
エネルギー収支が±0で、体重が増えも減りもしないことが分かります。

以上で、壊れた体蛋白と摂った蛋白質が、
どのようにエネルギー供給を担っているかを述べたのですが、
この時点で、

  食物から摂られて、体蛋白として貯えられた後、
  分解・酸化されて1g当たり4kcalのエネルギーを出す

という蛋白質の振る舞いは、

  食物から摂られて、グリコーゲンとして貯えられた後、
  分解・酸化されて1g当たり4kcalのエネルギーを出す

というブドウ糖と同じことが分かったと思います。

また、蛋白質から摂るエネルギーを全体の15%以上にしようというのは、
それ位の量で、壊れてエネルギーを出した蛋白質を補充することができるからです。

数字での確認:
総摂取エネルギー=総消費エネルギー=1800kcalなら、
総エネルギーに占める蛋白質のエネルギーの割合は240/1800≒13%。
確かに、蛋白質からのエネルギーを15%摂るようにすれば
蛋白不足にはならないだろう…

摂った蛋白質が余ると、壊れてエネルギーを出すから、
その分脂肪が燃えずに貯まる

さて今度は、
食事から摂った蛋白質と、壊れた蛋白質の量に差があった場合を考えます。

すぐ分かるのは、食物から摂った蛋白質が壊れた体蛋白より少ないときで、
体蛋白が壊れた量と摂った蛋白質量との差だけ、体蛋白量が減っていきます。
ですから、推奨量以下に蛋白質摂取量を減らしてはいけないことは何度も述べました。

問題は、壊れた量より多く蛋白質を摂った時です。

蛋白質を多く摂るとその分骨格筋が増えるのならいいが、
骨格筋を増やすためには、無酸素運動が必要で、
さらにそれを効率よく行うために、蛋白同化ステロイドという
(スポーツの)ドーピングで使われる薬があります。

運動もせず、蛋白同化ステロイドも使わないときは、
骨格筋は増えようがありませんから、
余分に摂った蛋白質は、体蛋白が壊れるのと同じ方法で壊されるしかありません。

先ほど、非常に重要だ、と指摘したことをここで提示しますが、
「蛋白質が酸化されて出るエネルギーの分だけブドウ糖や脂肪酸が燃えない」
すなわち、蛋白質が壊されるときには、ブドウ糖と同じ量のエネルギーを放出するので、
その分、ブドウ糖や脂肪酸を燃やさなくて済むということに注意してください。

このとき、
蛋白質から摂るエネルギーを増やした分だけ、糖質や脂質を減らしておけば、
蛋白・糖・脂質で摂ったエネルギーの合計と体が消費したエネルギーは等しくなるから、
体重は増えも減りもしません。

しかし、糖・脂質で摂ったエネルギーが前と同じで、蛋白質を増やしたときには、
それで消費エネルギーが増えることはないから、結局、
摂ったエネルギーと消費したエネルギーの差に応じて、
7kcalで体重1gの割合で体脂肪組織が増えることになります。

これは、蛋白質が糖質と同様1g当たり4kcalの比率でエネルギーを供給するように、
蛋白質のエネルギーが余った時にも、
糖質と同じ割合で体脂肪組織に貯えられることを示しています。

よく、摂った糖質・脂質・蛋白質のエネルギーのうち、
どの物質のが消費されやすく、どの物質のが貯えられやすいか、ということをいいます。

それは、体が必要とするエネルギーが、どの物質から供給されやすいか、
どの物質から貯えられるかに優先順位があるか、というだけのことです。
一度、蛋白質のエネルギーが消費され、貯えられるということになれば、
蛋白質は、量的に、糖質とまったく同じ振舞いをします。

ここまで説明してきたことは、別に特別なことでなく、

  摂ったカロリーが多ければ肥満になるという(当たり前の)ことは、
  蛋白質のカロリーにも例外なく適用される

ということを言っているだけです。

ただ、それまでに学んだ知識が妨げになったり、
この記事に視覚的な図がなかったりすることで、分かりにくかった人は、
大事なところなので、以前の記事()も合わせて読んでください。

蛋白質を制限せず糖質だけ制限しても、肥満・糖尿病は改善しない

こうして、糖質をどれだけ制限しても、蛋白質を過剰摂取すれば、

  体脂肪増加 → インスリン抵抗性上昇 → 血糖上昇

という一連のしくみで、糖尿病が発病します。

これは、糖質制限でいくら食後血糖を抑え込もうとしても、
インスリン抵抗性上昇による相対的インスリン不足で、
早朝空腹時の血糖がすでに高いので、糖尿病が治らないことを意味します。

この状態から脱却するためには、
蛋白質を含めた総カロリーを減らすだけでいいのですが、
従来のカロリー制限に基づいた生活指導ではうまくいきません。

その理由は、次回の記事で述べることにします。
(この記事で今までに述べた内容が、一度に学習できる脳の容量を越えていて、
 「蛋白質が肥満の原因」という主題が記憶に定着しないからです)

コメント / トラックバック3件

  1. […] このサイトの方法だと、カロリー制限が糖質制限よりも容易に実行できることが 番組中で明らかになるとよいのですが、放送される前の今の時点ではわかりません。 […]

  2. maru より:

    現在ぼくさーを目指しておりますが、とても参考になります。応援させていただきました!また拝見させていただきます^^


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