前回は、
脂肪の合成速度を増減させるしくみを研究しても、肥満を減らすのに役立たない、
それは、エネルギー保存の法則で考えると分かる、
という話をしました。
今回も、エネルギー保存の法則を使って、今まで曖昧だったことをくっきりさせ、
ダイエットの成功に役立つ話を2つします。
エネルギー保存の法則について考えるときには、
物事を明確にするため、必ず「周囲と区別された空間」について考えます。
それには、2通りありますが、どちらも常識的な話で難しいものではありません。
密閉・断熱された空間で、化学反応が起きても、総エネルギーは同じ
1つ目の、周囲と区別されている空間は、
周囲と、物質やエネルギー(熱)の出入りがない空間です。
この空間を考えるのは、その中でエネルギーが保存されていることを考えるときです。
その中では、どんなことが起こってもエネルギーは保存されています。
例として、密閉・断熱された容器の中で、
ブドウ糖を酸素と化合させて、二酸化炭素や水と熱エネルギーが出るときの反応を考えます。この反応を式で書くと、(燃焼の熱化学方程式)
ブドウ糖+酸素 = 二酸化炭素+水 + (熱)エネルギー …(1)
↑ ↑
反応前の物質(+E) 反応後の物質(+E)
となります。
反応の前後で、空間内部の総エネルギーは変わらない、
にもかかわらず、反応の後で熱エネルギーが出ている。それは、
ブドウ糖と酸素が持っていたエネルギー(E)より、
二酸化炭素や水が持っているエネルギー(E)のほうが少ない分だけ、
エネルギーが熱として出てくるからだ
と考えます。
この時に出る熱が、ブドウ糖1g当たり4kcalであるとか、
脂肪なら1g当たり9kcal、
蛋白質は1g当たり4kcal
であるとかは、知っている人も多いでしょう。
また、反応に必要な酸素の量や、できる二酸化炭素の量も分かっているので、
これらを測定することで反対に、
体の中で燃えたブドウ糖の量や、出た熱エネルギーの量を計算で求めることもできます。
空間に、物質やエネルギーが出入りすると、その分だけエネルギーが増減する
2つ目の、周囲と区別されている空間は、周囲と物質やエネルギーが出入りする空間です。
人間の体は、周囲から明らかに区別されているので、これを空間の例としてみます。
この空間に、外からブドウ糖などの物質が加えられた後、空間の中で酸素と化合(酸化)するときにはエネルギーを出します。
ですから、加えられた時点で、空間内にエネルギーが貯えられたことになります(貯蔵エネルギーの増加)。
また、空間内の物質が酸化され、そのエネルギーが外に出たときには、空間内部に貯えられていたエネルギーはその分減ることになります(貯蔵エネルギーの減少)。
これらのエネルギーの出入りと、貯蔵エネルギーの関係を式に書くと、
摂取エネルギー = 貯蔵エネルギーの増減 + 消費エネルギー …(2)
ということになります。
この式が表している、エネルギー保存の法則に対して矛盾のない主張をするためには、
(後で実際に考えますが)
体の物質全体で、
1日や1カ月など、一区切りとして十分な時間の後で、
状態がどう変わるかを見なければなりません。
蛋白質、脂肪、糖質の分解や合成は、体の中で絶えず行われています。
そのめまぐるしさに目を奪われて、
一部の物質について、不十分な時間しか観察・測定しないで、
エネルギー保存の法則に矛盾した主張をすることがあるかもしれません。
矛盾した主張は、全体を通してみると誤っていることになるので、
それにしたがって何か実行しても、(前回の記事のように)効果は出ないことになります。
もし、観察・測定結果がエネルギー保存の法則に矛盾しているときは、
(その前に、まず、
矛盾していないかどうか検討してみようとすることが大切ですが…)
「この結果はエネルギー保存の法則に矛盾しているから、
反対方向の別の反応が存在するはずだ」
と結論付けないと、前回の記事で述べたように、その研究は結局全部否定されることになります。
反応前と後の状態がどちらも同じなら、出入りするエネルギー量も同じ(ヘスの法則)
さて、人間の体の中では、ブドウ糖が二酸化炭素と水になるまでに、
いくつもの段階でエネルギーを出したり、もらったりしています。
出したエネルギーの合計から、もらったエネルギーの合計を引くと、
ブドウ糖を酸素中で燃焼させたとき
ブドウ糖+酸素 = 二酸化炭素+水 + (熱)エネルギー …(1)
と同じ量のエネルギーが出ます。
エネルギーが外から入ったときは、その空間の内部エネルギーが増え、
エネルギーが出て行くと空間内部のエネルギーが減り、
それらは全て積み上がっていく(保存される)からです。
その他、どんな化学反応でも、
反応の前(ブドウ糖+酸素)と、後(二酸化炭素+水)の状態が同じであれば、
出入りするエネルギーの量は同じであることが分かっていて、
ヘスの法則(化学分野での保存の法則)と呼ばれています。
この法則から、体の中で
ブドウ糖をそのまま燃焼しても、
ブドウ糖を、脂肪に合成してから、燃焼しても、
その時に出るエネルギーは同じだということが分かります。
余分に摂った蛋白質のエネルギーは脂肪のエネルギーとして貯えられる
このように、多段階の反応の度にエネルギーの出入りがあっても、
初めと終わりの状態だけ考えればよい、
というのと同じ考え方で、
体に糖質や蛋白質として貯えられているエネルギーは一定
であることも分かります。
体に糖質として貯えられるエネルギー:
糖質のうち、血液中のブドウ糖は、糖尿病がなければ一定の範囲に保たれています。
また、ブドウ糖から作られて筋肉や肝臓に含まれるグリコーゲンも糖質の仲間で
(ブドウ糖と同じ1g当たり4kcalの)エネルギーを貯えています。
多少の増減があっても、数日単位でみると、その質量は一定、
そして、糖質の形で体に貯えられたエネルギーも一定(貯蔵エネルギー変化は0)と見ることができます。 …図1-1)

ということは、
食物から摂り入れた糖質は、同じ量の注1糖質が燃えて、二酸化炭素と水ができ、
できた熱エネルギーが消費エネルギーとして体から出て行ったことになります。 …図1-2)
もし、糖質として摂取されたエネルギーが、消費されたエネルギーより多いときは、
脂肪の合成に使われて、体の中にエネルギーとして貯えられることになります。
貯えられる脂肪のエネルギー量は、
原料(燃料)として使った糖質のエネルギーと等しいので、
糖質9g(4×9=36kcal)から、4g(9×4=36kcal)の割合で、
脂肪が合成されることになります。
体に蛋白質として貯えられるエネルギー:
筋肉や内臓には大量の蛋白質が含まれています。(体蛋白:体重の20%)
もし、新たに無酸素運動を始めたり、増やしたりすれば、
筋肉量が増え、それに応じた分だけ蛋白質としてエネルギーを貯えることができます。
しかし、通常の生活を続けているときには、筋肉が増えて体蛋白の量が増える、ということはありません。
体蛋白の一部(1日当たり体重の0.1%)は、分解され、
エネルギーとして消費されています。
分解された蛋白質は、同じ量注2だけ、食事で摂った蛋白質から補充されるので、
体蛋白の総量に変化はありません。 …図2-1)
(私たちの体に出入りする物質も、
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」
です)
蛋白質として摂取されたエネルギーのうち消費されずに余った分は、
脂肪の合成に使われて、体脂肪として貯えられることになります。
…図2-2) (え???と思った人は→1、2、3、4)
蛋白質から脂肪が合成されるときにも、
原料(燃料)にした蛋白質9g(4×9=36kcal)と等しいエネルギーの脂肪4g(9×4=36kcal)が合成されます。

1) 体蛋白の一部(体重の0.1%)は、毎日エネルギーとして消費されるが、
摂取した蛋白質で補充される。
2) 蛋白質は、有効な無酸素運動で筋肉が増えない限りは、
余分に貯えることはできないから、
摂取されたエネルギーから消費されたエネルギーを引いた360kcal
すなわち40gの体脂肪が貯えられる。
これを1か月間続けると、40×30=1200g=1.2kgの体脂肪が増える。
結局、
蛋白質に糖質と同じエネルギーがあり、肥満の原因になっている
ことが言いたかったわけですが、これまでの説明を振り返ると、
ヘスの法則(エネルギー保存の法則)で、初めと終わりが同じ反応
[ 糖質(1g)+酸素 = 二酸化炭素+水 + エネルギー(4kcal) ]
なら、断熱容器の中でも人体でも同じエネルギーが出る、
人体では糖質の燃え残りで脂肪を作る、
これは、蛋白質(1g)の反応でも、全く同じ
というだけで、話の筋をひとつひとつ追っていけば難しい話ではありません。
にもかかわらず、これに気づかなかったのは、
「蛋白質=体を作っている材料」という知識が強固に(しぶとく、とも言います)
残っていて、検討してみようとしなかったことが原因でしょう。
注1、注2:
「同じ量の」というのは、
取り入れた蛋白質や糖質の分子がそのまま燃える(分解される)のではなく、
もともと体に含まれていた分子が燃えて体から出て行き、
その分だけ、取り入れた分子が体を作っている分子になる(合成される)
「入れ替わり」があることを意味しています。(…もとの水にあらず)
このように、「分解される量」、「合成される量」が分からなくても、
一定時間の初めと終わりの状態を見て、
変化がなければ、「分解される量=合成される量」だということが分かり、
変化があれば、その差が「差し引き」いくらであるかに注目する
という、ヘスの法則(エネルギー保存の法則)と共通の考え方は、
物事をくっきりと捉えるのに有効な方法です。
短時間の有酸素運動でも、体脂肪は減少する
運動を始めたときのエネルギーは、
血中のブドウ糖や、筋肉に貯蔵してあるグリコーゲン(上に書いたように糖質の仲間です)を燃焼させることによってまかなわれ、
脂肪が酸化されにくいことは、よく知られています。
これは、糖質が燃えるときは、吸った酸素と吐いた二酸化炭素の体積は等しいが、
脂肪が燃えるときは、酸素より二酸化炭素のほうが少ないという現象(呼吸商)を使って確かめられています。

30分だけ歩いたときの消費エネルギーが90kcalだとすると、
そのエネルギーは、体に貯えられた糖質を23g(≒90÷4)燃焼させることで得られます。 …図3-1)
燃焼された糖質は、そのあと食事から摂った糖質で補充されて …図3-2)
元の量に戻ります。
摂取した糖質が今までと同じ量なら(増えると運動の効果は帳消しです)、
今まで糖質を燃焼して得ていた消費エネルギー量のうち、
グリコーゲンの補充に使われたエネルギー量が不足するので、
その分のエネルギーは、脂肪を燃焼して得るようになり、
結局は体脂肪が減ります。 …図3-3)
幸い、安静時に消費されるエネルギーは、
糖質を燃やすよりも、脂肪を燃やすほうから供給されやすいので、
エネルギーの供給源が、一部、糖質から脂質に移っても、支障は起きません。
もしエネルギーが脂肪から供給されなければ、生命活動に支障をきたすでしょうし、
エネルギーが脂肪から供給されなくてもどこかから降ったり湧いたりする、のなら、
エネルギー保存の法則を犯して、科学とは別の世界の話になってしまいます。
さて、短時間の有酸素運動でも体脂肪が減ることが、
ダイエットの成功にどう役立つかです。
「30分以上歩かないと脂肪が燃えない」
だと、歩く時間と体脂肪減少量の関係が「よく」分からなくなる、
実際のところは、「体脂肪が減ること」が分かっているだけで、
体脂肪が何g減るかは「全く」分からない、
(運動後に減った体重は、ほとんどが水分によるもので、脂肪によるものはわずかです)
その結果、消費したエネルギー以上に食べ過ぎて、
体重が全く減らないことになっていました。
「歩いた分だけエネルギーを消費する」ことが分かると、
何分歩くと何kcal消費したか、それによって体脂肪が何g減るかも明らかになります。また反対に、目標の体重を維持するために、毎日歩き続ける時間も計算できます。
(現在あまり運動しない人が、今の体重から10%少ない体重になり、
それを維持するためには、毎日1時間《すでに運動している人はさらに長時間》
の歩行を、現在の運動に追加して
《今1時間歩いている人は毎日2時間になります》
生涯続けなければなりません)
それを(摂取エネルギーを一切増やさずに)実行できる人がいるかもしれませんが、
実行不可能という人は、食事のエネルギー減らせば目標体重を実現できます。
(幸い、運動で消費エネルギーを増やすよりも、摂取エネルギーを減らす方が
寿命が延びる、という説もあります。ウェブ検索してみてください)
いずれにせよ、歩く時間と体脂肪減少量の関係が明らかになることにより、
「やみくもに有酸素運動して効果は運まかせ(食べる量まかせ)」
でなく、運動するにせよしないにせよ、選択のための判断材料が得られます。
もしあなたが生活習慣病で、生活習慣を変えて治したいと思っているなら、
そのために減らすべきエネルギーは分かっています。
運動を始めるのは、行おうと思っている運動で確実に治るかどうかを
調べてからでも遅くありません。
(このブログのほかの記事では、ブログの表題のこともあり、
エネルギーのことを「カロリー」と書いてきましたが、
この記事と前回の記事では内容に合わせて、
学術的な「エネルギー」という用語を使いました)
ブログ村 ダイエット
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[…] ×30分続けると脂肪が燃える […]
[…] 誤りを正すのは、 「短時間の有酸素運動でも体脂肪は減少する」ことを証明するために使った、 […]
管理人の自己レスです。
この記事もじてトレ さん (ツイッター) からリンクをいただきました。ありがとうございます。
このサイトはダイエット(食事)に特化した内容なので、
速くなるために直接役立たないかもしれません。
ただ、体重や体脂肪を調整すれば、ヒルクライムでは有利になるはずです。
私のツイッターでの、自転車愛好家との会話はお役に立たないかな?
ゆっくりしていってください。