前回は、糖質制限食(カーボカウント、ローカーボなども同じ)では、
血糖値が上がりにくくなることはあっても、糖尿病が治ることは少ない
ということを、実際の患者さんの例を引いて述べました。
今回は、その原因を、
患者さんの体の中で起こっていることを順に述べていくことで、
解き明かします。
「糖質制限食」というキーワードでこのブログを訪れてくれた人は、
糖尿病が治ることは少ない、ということを不審に思うかもしれませんが、
私が知る限り、糖尿病が「治った」人は、糖質制限食ではなく、
従来通りの「カロリーが少ない食事」を実行している人です。
(「カロリーを減らしても体重が減らなかった」という人はこちら)
ためしに一度読んでみてください。
1.蛋白質の摂り過ぎで、脂肪細胞に脂肪が貯まる(太る)。
モンゴルやイヌイットの人たちが肉・乳、魚などしか摂らなくても、
低血糖で倒れたりはしません。
これは、人間の体に、糖新生といって、
蛋白質を作っているアミノ酸の一部(糖原性アミノ酸)から
ブドウ糖を作るしくみがあるからです。
一方、人間の体は、毎日、体を作っている蛋白質が壊れた分を、
食物から摂った蛋白質で補充しています。(壊れる量が蛋白質摂取の必要量です)
壊れた量以上に摂った(摂り過ぎた)蛋白質は、
それを体に蓄えておくしくみがないので、糖新生でブドウ糖に作りかえられたり、
脂肪に合成されたりして、エネルギーとして利用されます。
(蛋白質1gには糖質1gと同じ4kcalのカロリーがある、
というのは、このような意味です)
そして、エネルギーとして利用されなかった(蛋白質由来の)ブドウ糖や脂肪は、
ブドウ糖は脂肪に合成されたあと、脂肪は直接、脂肪細胞に蓄えられます。
このような状態を体全体でみると、体脂肪が増えている、すなわち肥満である、
ということになります。
結局、摂り過ぎた蛋白質は、体脂肪になって蓄えられている
ことに注目してください。
このようなわけで、糖質制限食では蛋白質の摂取には制限がありませんから、
実行している人の中には体脂肪が多い人が多く見られます。
2.脂肪が貯まると、インスリンの効き方が悪くなる
(インスリン抵抗性が増える)
脂肪細胞が、脂肪を多く貯め込むと、脂肪細胞から出ている
インスリンの働きを助ける物質の出かたが悪くなったり、
インスリンの働きを邪魔する物質が多く出たりするようになります。
そうなると、体の中で(膵臓から)同じ量のインスリンが出ていても、
インスリンの効き方が悪くなって、血糖値が上がってきます。
(インスリンを注射で体に入れるときも、太った人はインスリンのきき方が悪いので、
同じ血糖値でも多量のインスリンが必要になります)
このことを「インスリン抵抗性が増えた」といいます。
糖尿病の原因は、まだ完全に解明されていませんが、以前から、
このインスリン抵抗性と、次に述べるインスリン分泌不全が、
大きく関わっていると言われています。
3.糖尿病の患者さんは、インスリンの出方が悪い
(インスリン分泌不全)
糖尿病になりやすい人は、ブドウ糖が腸から吸収されたときに、
すぐには十分な量のインスリンが出ません。
このことを「インスリンの分泌不全」といいます。
ところが、インスリンの分泌不全がある人が全員糖尿病になるわけではありません。
事実、ほんの50年前の日本では、
糖尿病の患者さんは今の50分の1しかいなかった、といわれています。
これは、糖尿病の発病には、インスリンの分泌不全以外の要因、
おそらくは、体脂肪が増え(てインスリン抵抗性が増え)ることが必要なこと
を示しています。
前回の糖尿病患者さんの症例は、この体脂肪の増加が、
糖質制限食でいわれているのと同じように、
「肉・魚・大豆製品などの蛋白質をしっかり摂る」
ことによって起こったと考えられます。
4.「蛋白質は体に良い、という誤った知識」が
糖尿病(などの生活習慣病)を起こす生活習慣を作っている
この患者さんは、(蛋白質に糖質と同じカロリーがあることを無視して)
蛋白質はいくら摂ってもよいとする、蛋白質善玉説 proteinism
(私が名付けました。英語の「-ism」は、「Buddhism:仏教信仰」、
「Darwinism:ダーウィン主義」、「heroinism:ヘロイン中毒」
のように使われます。それぞれの訳語を「蛋白質」の後に付けると
興味深い語感になります)
という誤った知識によって糖尿病になったと考えることができます。
この患者さんだけでなく、今まで信じられてきたが、実は誤りだったこの知識で、
蛋白質の摂り過ぎになって、糖尿病などの生活習慣病にかかっている人が多い
というのが現状です。
糖質制限食が糖尿病を改善させると主張する人たちは、
糖質制限食でも(糖質摂取が0でも)、
蛋白質からブドウ糖を作る糖新生のしくみによって低血糖は起こらない、
だから「大丈夫」、と言っています。(これは正しい)
しかし、まさにその糖新生を経て、
蛋白質から(または蛋白質から直接)脂肪が合成され、
体脂肪が増えることによって、
インスリンの効きが悪くなって(インスリン抵抗性)、糖尿病が治らないこと、
つまり、糖新生があるから、蛋白質の摂り過ぎは「全然大丈夫ではな」く、
それは、「蛋白質善玉説は誤り」を意味すること、
を知って、自分たちの糖尿病を治して欲しいと思っています。
とはいうものの、蛋白質を目の敵にすると、栄養不足になる人が増えるので、
蛋白質は必要量以上を摂らなくてはならないこと、
を強調し、それさえ実行すれば、あとは、
ほうが、食事療法の途中で挫折しにくくなることを付け加えておきます。
[…] また、そのアミノ酸を原料にしてブドウ糖ができるものを糖原性アミノ酸といい、 脂肪酸ができるものをケト原性アミノ酸といいます。 […]
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