「蛋白質は体を作る原料」という思い込みが、「蛋白質が肥満の原因」であることを分かりにくくしている。ただ、思い込みが排されて病気の原因が判明した例も多いので悲観的にならなくてもよい

先日、

「のどがおかしい」

という40代女性の患者さんがいました。
ん? 咽頭炎(のどの炎症)の疑いで耳鼻いんこう科へ紹介か、
などと思いながら、さらに聞くと、

「このところ、魚の骨が のど に刺さるようになった。
 今までそんなことはなかった、私の のど はどうなってしまったのか」

と言うのです。
これは、耳鼻いんこう科じゃなくて眼科の紹介だ、と判断したのですが、
その理由は … 分かりますよね?

患者さんは、自分の のど が、今までは骨を素通りさせる鈍感な のど だったのが、
急に骨を引っ掛ける「門番機能が高い」のどになった、と思ったようです。
もちろん、のどが魚の骨を見逃したり、引っ掛けたりする能力を変えることはないので、

  魚を食べるときに骨が刺さりやすくなったのなら、
  それは、口から骨が入ってくる頻度が増えたから、
  さらにそれは、魚の骨を取るのに必要な目の能力すなわち視力が落ちたから、

と考えなければなりません。(だから、眼科紹介、です)

実は、女性のほうが、近くのものを見る視力がおとろえる、いわゆる老眼が始まる年齢が早いことをヒントにしようと思って、
この記事の初めで、「40代女性」という前振りをしています。
ただ、人にこの話をすると、このヒントがあってもなかっても、
目の問題だと分かる人は分かるし、分からない人は分からないようで、
この患者さん自身も、私の説明がすぐには理解できなかったようなので、
無駄な前振りだったかもしれません。

さて、患者さんが理解できなかった理由を推察すると、
症状が起こる場所が他ならぬ のど であるだけでなく、
骨が刺さって痛む、という感覚が伴うことにより、
より強く、その起こった場所に原因があると思うからでしょう。

胃が痛むのは、胃炎や胃潰瘍などが胃で起こっているから、
とは、医師でも考えていることで、
症状が起きている場所に病気の原因があると当たりを付けるのは、この患者さんに限ったことではありません。
ただ、一度、あることが原因だと疑い始めると、
それとは別の原因を思いつくことは難しくなり、
真の原因を聞かされても、なかなか納得しない、
つまり思い込みから逃れることが難しくなるのは、困ったことです。

思い込みの例で医師がよく知っているのは、ポリオのワクチン開発の話です。
ジェンナーによる初めての予防接種が行われた約200年前から
ポリオのワクチンが50年前に実用化されるまでに、150年も掛かっています。
それほど時間が掛かった原因は、ポリオウィルスの感染経路が長い間分からなかったからです。

ポリオは神経を侵して手足の麻痺をもたらす病気ですが、
神経組織で増殖するという性質から、空気または蚊を介して、肺や皮膚から人体に入ってくると思われて(思い込まれて)いました。
実際には、不活化ワクチンになる前の生ワクチンの経口接種(口から飲む)が示すように、
水や食べ物から、口を経て腸管から神経に達していたのですが、
思い込みのために長い間気付かれなかったのでした。

もう一つの思い込みの例として、
キノホルムという薬が原因で起こったスモンという病気があります。
まさか薬が原因で、という思い込みがあり、さらにスモン病自体の治療薬としても使われていたキノホルムが原因であるとはなかなか気付かれませんでした。

(ポリオの生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えが遅いといわれていたのとは違って)
いったん、キノホルム原因説が出てからの厚生省(当時)の対応は速く、
その速さには、それまでの水俣病やカネミ油症での経験が影響していると思います。

ところが、これらの事件で厚生省が鍛えられた結果、今度は「塞翁が馬、福転じて禍」が起こります。
思いもしなかったものが病気の原因だと突然分かることがあるから、

  できるだけ、いろいろなものを食べて危険を分散しておこう、という考えが、
  のちの「1日30品目以上の食品を摂ろう」という形になり、
  それが食べ過ぎの原因になり、
  肥満や生活習慣病の一因になった、

と私は見ています。

ただし、今、厚生労働省は「1日30品目」を勧めていませんし、
かつてそれを勧めていた厚生労働省に(誰も知らなかったのだから)責任はありません。

(アメリカ心臓協会も 2018.8.9 に同じ趣旨の声明を出したようです)

あれこれ書きましたが、話はこのブログ全体のテーマである肥満の原因に戻ってきました。
今も、

  「肉や魚・大豆などの蛋白質は、血液や筋肉の原料」

という常識は、小学校5年の家庭科で教えられています。
そして、これに始まる「思い込み」が、蛋白質が肥満の原因であることを気付かせないようにしてます。
(もちろん、誰も知らなかったのだから、教育現場の先生たちは言うに及ばず、
 家庭科で教えることを決めている文部科学省にも責任はありません)

ともあれ、今回、「医学における思い込み」を振り返ってみて、良かったのは、
ポリオにしろ、スモンにしろ、思い込みを排して真の原因に気付いた人が何人もいたことです。

  「蛋白質が肥満の原因」

という知識が知れ渡るのはもう少しだ、という気がしてきました。

コメント / トラックバック5件

  1. chigusa より:

    >「必要量の必須アミノ酸を摂るために必要なタンパク質の量が『タンパク質の必要量』」

    おお!やっと分かりました(笑)

    丁寧な解説をありがとうございます。

    >議論は面倒でも、結論は常識的、
    >「人間の体はそんなにヤワじゃないよ」
    >ってところです。

    意外と丈夫にできているんですね、人間の体って。

    これからの体重の維持が、かなり気楽になりました。

    継続は力なり!で適当に頑張りますー。

  2. taijuuh より:

    chigusa さん

    > 必要量のタンパク質を摂るために必要な必須アミノ酸…

    ではなくて、

    「必要量の必須アミノ酸を摂るために必要なタンパク質の量が『タンパク質の必要量』」

    なのです。

    必須アミノ酸というのは、体を維持するためにどうしても必要なアミノ酸
    (だから「必須」といいます)で9種類あります。
    9種類のアミノ酸ごとに必要量が決まっていて、
    どれか一つでも足りないと体が維持できません。

    しかし、幸いなことに、この必須アミノ酸は食物の蛋白質に豊富に含まれていて、
    多くの人が思っているよりも少量の蛋白質(お読みになったと思いますがこの程度の量です)を摂ってさえいれば、どの必須アミノ酸も不足することはありません。

    この、どれくらいの蛋白質を取っていれば、どの必須アミノ酸も不足しないようにできるか
    という蛋白質の量が「蛋白質の必要量」です。

    蛋白質にもいろいろな種類があり、
    それぞれ含んでいる必須アミノ酸の量も違っているのですが、
    少し必須アミノ酸が少ない蛋白質を摂っても必須アミノ酸の不足が起きないように、
    蛋白質の必要量は、少し多めに決められています。

    …というのが、「蛋白質の必要量と必須アミノ酸」の解説です。

    このお題について今まで書いたことがなかったのですが、
    ご質問をいただいたのをきっかけに書いておきます。

    面倒な文章にお付き合いしてもらってすみませんでした。

    > とにかく、特に気にすることはない
    > 今までの常識(非常識?)は捨てちゃいます。

    このブログに書いてあることがだいたい真実に近そうだ、
    とツカンでもらったのだと思いますが、その通り。

    議論は面倒でも、結論は常識的、
    「人間の体はそんなにヤワじゃないよ」
    ってところです。

  3. chigusa より:

    >このブログは、体重のコントロールのために書いていて、
    >そのために必要なことは書くようにしています。
    >反対にいうと、書いていないことは必要ないと思ってもらってかまいません。

    納得しました!

    確かに、このブログに書かれている通りに
    減らしやすい食事からカロリーを減らしただけで、
    実際に結果が出ていることからも分かりますね。

    世の中に、いかに要らない情報が溢れていることか…
    これまで振り回されてきましたが、
    このブログに出会ったことで
    それからもオサラバできそうです^^

    今回、ちょっと思い切ってカロリーカットをして
    約4週間経ちますが、
    肌の調子が以前と比べて激変したか?
    と言われると、そうでもないので、
    食事の内容はさほど影響を与えないのかもしれませんね。

    野菜や海藻類の摂取量は今までと同じくらいにしたいと思います。

    一方、必須アミノ酸を必要量摂ることは、
    筋肉を落とさないで体脂肪を減らすために必要なことです。

    >ところが、蛋白質を必要量摂れば、必須アミノ酸は必要量摂ることができるのです。
    >なぜなら、蛋白質の必要量は、必須アミノ酸を必要量摂るために決められているからです。

    「タンパク質が必要量摂れている」

    …ということは、

    「必要量のタンパク質を摂るために必要な必須アミノ酸が必要量摂れている」

    …つまり

    「必須アミノ酸の必要量を摂るためのタンパク質が必要量摂れている」

    …こんがらがってきました(笑)

    とにかく、特に気にすることはないということですね。
    今までの常識(非常識?)は捨てちゃいます。

  4. taijuuh より:

    chigusa さん

    > 体重はカロリーだ…
    > タンパク質は必要量を摂って、摂りすぎに注意する…
    > ご飯を食べなくても問題ないこと。は分かりました。

    正しく理解してもらい、ありがとうございます。
    このブログや本(メタボ氏のための体重方程式)を書いた甲斐がありました。

    > 体重を減らすために……
    > ビタミンや必須アミノ酸等の栄養素のことは考えなくてもいい?

    体重(正しくは体脂肪)を減らすためには、ビタミンへの注意はあまり必要ではありません。

    このブログは、体重のコントロールのために書いていて、
    そのために必要なことは書くようにしています。
    反対にいうと、書いていないことは必要ないと思ってもらってかまいません。

    体重のコントロールというブログのテーマからは外れますが、
    肌荒れの原因については、よくわかっていないことが多く、
    ビタミンのサプリを摂っても改善しなかったという人が多いように思います。

    ましてや、サプリよりビタミンの量が少ないふだんの食事を工夫しても
    あまり効果は望めないと思います。
    肌荒れがビタミン不足によるものであれば、必要量を取れば改善するはずですが、
    不足がなければ、それ以上にとっても、原理的に改善は期待できません。

    つまり、野菜や海藻の量は今までよりも減らさないようにさえすれば十分だと考えています。

    一方、必須アミノ酸を必要量摂ることは、
    筋肉を落とさないで体脂肪を減らすために必要なことです。

    ところが、蛋白質を必要量摂れば、必須アミノ酸は必要量摂ることができるのです。
    なぜなら、蛋白質の必要量は、必須アミノ酸を必要量摂るために決められているからです。
    (興味があれば、「蛋白質の必要量 必須アミノ酸」などの言葉でウェブ検索してみてください)

    ですから、必須アミノ酸についてもことさらに気にする必要はありません。

    体重を減らそうと思って〇〇を食べるという方向で成功することはなく、
    唯一有効なのは、カロリー=食べる量を「減らす」ことです。

    同じように、安全に体重を減らすために必要な知識はわずかしかないので、
    実行しても効果がないような知識は、捨ててしまわないとかえって挫折の原因になります。

  5. chigusa より:

    こんにちは。

    以前よりいろいろなダイエット方法を模索しており、
    今回ここを知り、腑に落ちたので実行し、
    実際に結果が出ているのでお礼も兼ねてコメントしました。

    体重=カロリーが頭に定着したからなのか、
    間食やご飯の量を、我慢しないで減らせるようになりました。
    ありがとうございます。

    ぶしつけかもしれませんが、質問があります。

    体重はカロリーだということは分かりました。

    そして、目標体重までカロリーを減らしても問題ないこと。
    タンパク質は必要量を摂って、摂りすぎに注意すること。
    ご飯を食べなくても問題ないこと。は分かりました。

    ビタミンや必須アミノ酸などをバランスよく摂らなければならない…

    こういうことを良く聞きますが、
    それに関してはどう解釈したら良いのかと考えております。

    というのも、私は肌が荒れやすいようで、
    今までの食事で脂っこい物を多く摂った時には
    肌荒れもひどくなる…ような気がするからです。

    体重を減らすためにカロリー制限をして、
    注意すべきことを守ったうえで
    食べるものは問わない、ということであれば、
    ビタミンや必須アミノ酸等の栄養素のことは
    考えなくてもいいということでしょうか?

    肌荒れにはこの食材がいい!とか
    ビタミン類を摂らなければいけない!とか
    そういったことは気にしなくてもいいことなんでしょうか?


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