平均を見るとダイエット・食事療法に不要なことが分かり、個性に注目すると実行に必要なことが分かる(ただし注目すべき個性はそう多くない)

ダイエット・食事療法を実行するときに、平均という考え方ががおおいに役立ちます。

平均値だけで、ダイエットに効果がない方法が分かる

まず、物事を大まかに把握するときに平均値は不可欠な数値です。
ダイエットの分野でも、平均値を見るだけで、次のことが直ちに分かります。

・ カロリーの吸収率はどのような条件でも平均するとほぼ100%だから、
  夕食が遅くても、吸収率が高まって太ることはない
  (早い時刻に摂っても体重は減らない)

・ 人間は、じっとしていても使うカロリー(基礎代謝)が
  平均すると全消費カロリーの6~8割を占めていて、運動をしてもあまり増えない

  (毎日30分歩きつづけても体重は5%以上減ることはない)

・ アルコールで摂っているカロリーは多くない
  (ビール350mlをやめても平均すると体重が7%以上減ることはない)

これらの平均値を実行前に知っていれば、希望する体重減少量が得られるかが分かり、
実行に値するかどうかが判断できるはずです。

(ただ、実際には、その平均値を初めから知ろうとしない人や、
 知ったあとも、つらいことを続けることに意味があるという「努力主義」の人がいて、
 ときどき説得に苦労しています)

摂取カロリーの変動も平均すると一定になる

もう一つ、一定期間の平均を取ると
食事量をおおよそ知ることができることも、ダイエットに役立ちます。
これは、変動があっても、その人の食事量は一定範囲に納まっていることを示しており、
これによって面倒なカロリー計算をしなくても体重を減らせるようになるのです。

食品の100g当たりのカロリーがいろいろでも、
暴飲暴食の日があったり、
栄養が偏らないようにといろいろな食品を食べたり、
体重を気にして食べ過ぎに注意しても、
体重の変動を、健康診断の結果など年単位で見ると、驚くほど一定です。
(だから困るのですが、ここは「一定である」ことに注目してください)

これは、一定期間の摂取カロリーが平均すると一定であることによります。
ですから、大切なのは厳密にカロリー計算することではなく、
食べる量を今までよりもしっかり減らすことです。
そうすることにより、カロリーが減って体重が減っていきますし、
それ以外の方法ではなかなか体重が減りません。

摂取カロリーは平均だけでなく個性も考える

さて、多くの場面では有用な平均値も、
男性、女性の摂取カロリーがそれぞれ○○○○kcal、○○○○kcal、
というだけでは、
大まか過ぎて、ダイエットをしようとするほとんどの人の役に立ちません
(体重が150kgあるような人の目安にはなるのですが…)
それは、男性なら、身長が180cmでも150cmでも一律に、体重は70kgがいい、
と言っているようなものです。

ですから、カロリー計算をするダイエット・食事療法では、
身長から求めた標準体重や活動性(運動量)で、
できるだけ一人ひとりの個性に合わせて摂取カロリーを決めるようにしています。
(このブログ・サイトでは、体重の割に体脂肪が多い隠れ肥満や、
病気との関連も考えて、体脂肪率も取り入れて計算します

「今の食事から減らすカロリー」なら太りやすい体質でも体重が減る

ところが、この方法で計算した摂取カロリーのとおりに、食べる物すべての

カロリー計算をしても体重が減らない

人がいて、ウェブ検索でこのブログにもやってきます。
厳密にカロリー計算をするのはかなり面倒なのに、
何か月たっても思うように体重が減らない…
だけならいいのですが、かえって増えてきたという患者さんまでいます。

これは、カロリー計算している以外に、間食や暴飲暴食が多くて余分なカロリーを摂っているからではありません。(そのようなカロリーは一定期間で見ると全摂取カロリーの5~10%くらいの人が多いからです)
原因は、消費カロリーが生まれつき少ない個性、すなわち、「太りやすい体質」にあります。
(専門的には、基礎代謝基準値=体重当たりの基礎代謝が少ない、といいます)

これを解決するのが、「今の食事から減らすカロリー」という考え方で、
太りやすい体質の人でも、同じ体重を目標にするなら、
減らすべきカロリーはほぼ同じでよいことが分かっています。

食生活の個性を考えると楽に体重を減らすことができる

さらに、個性を考えなければならないのが、
「減らすカロリー」を具体的に実行するときです。
日本人全体としてみると、炭水化物、脂肪、蛋白質は、ほぼ理想的といわれる比率で摂られています。(図表…67 エネルギーの栄養素別構成比の年次推移(20歳以上)

ところが、患者さん一人ひとりが食べた物を調べると、
ご飯やパンなどの炭水化物や油ものは少ないにもかかわらず、
肉・魚・大豆など蛋白質でカロリーを摂り過ぎて、肥満になっている人がいると思えば、
炭水化物の摂り過ぎで、蛋白質の必要量が摂れていない人がいるなど、
現代人の食生活は多様化し、個性に富んでいることが実感できます。

一方、あまり知られていませんが、
人間には、蛋白質からブドウ糖や脂肪を作ることができ、
いろいろな栄養比率に対応する能力があります

ですから、現在摂っている食事内容を調べれば、
その人の生活環境食品の好みに応じてカロリーを減らすことができ、
途中で挫折するのを防ぐことができます。
(念押ししますが、「理想的な栄養素の摂取比率=PFCバランス」に合わせても
 総カロリーを減らさなければ体重は減りません。ですから、食事内容を調べるのは、
 その人の個性を尊重して総カロリーを減らすためで、
 一律に「理想的な摂取比率」に合わせてもらうためではありません。)

結論:平均と個性をともに押さえると、確実、容易に体重が減らせる

この結論は陳腐ですが、この記事全体の内容は、そうではないはずです。
平均値という数字を見ると、

  食べる時刻の変更運動では体重が減らないこと、
  太りやすい体質があっても今の食事から必要なカロリーを減らせば体重が減ること

が分かり、安心してダイエット・食事療法に取り組んでもらえるからです。

一方、個性を見ると、

  人間には蛋白質からブドウ糖を作る能力があることから
  食生活の個性に合わせてカロリーを減らしてもよいこと

が導かれるので、実行が楽になります。

科学全般について、「オッカムの剃刀」といって、

  現実を説明できる限り、構築するモデルは単純な方がよい、

という指針があります。(統計学では、「赤池の情報量規準」や「ベイズの情報量規準」という理論がそれに相当します)

この記事に書いてある以上に複雑で細かいことを実行しても、
面倒なだけで、望む結果が得られないのは、そのよい例です。

コメント / トラックバック3件

  1. taijuuh より:

    。。 さん
    このページにお返事しました。

  2. 。。 より:

    こんにちは。
    お考えをお聞かせいただけると幸いです。
    自分の摂取カロリー内で蛋白質(必要最低限。目標体重分)取っている設定で極端に言えば
    お菓子などの糖分が多く含まれるものだけを食べて過ごした場合も体重や体脂肪率は減るのでしょうか?

  3. […] 「オッカムの剃刀」で肥満についての知識体系 […]


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