前回に続いて、基礎代謝が大きいことに関連したことを書きます。
じっとしている間にも使われていく基礎代謝のうち、
脳で使われるブドウ糖のカロリー(エネルギー)も
長時間食事を摂らないときでも供給され、途絶えることはありません。
・・・
患者さん「確かに、食事を減らしても大丈夫かという不安はあります。
しかも、じっとしてもどんどんカロリーが使われている
(基礎代謝が大きい)と聞くと、食事のカロリーを減らしたとき、
基礎代謝に使われるカロリーがちゃんと調達されるのか気になります」
私「基礎代謝で使われるカロリーのうちで一番心配なのは、
脳でブドウ糖として使われるカロリーのことだと思います。
このブログの4月19日分と4月20日分で説明したのですが、その概要は、
食事を摂らないときに脳が必要としているブドウ糖は、
筋肉など体を作っている蛋白質を原料にして作られている
(筋肉などの蛋白質は摂った食品の蛋白質で補われる)
ということです」
患者さん「蛋白質からブドウ糖が作られる、
ということは今まで聞いたことがありません」
私「それは、ブドウ糖の原料になる穀物(炭水化物)が獲れない地域で
生活しているモンゴルやイヌイットの人たちが
低血糖発作を起こさないことを見ると、納得してもらえると思います」
患者さん「ううん。現代ならともかく、交通が発達する以前は、
肉や乳製品、魚など蛋白質ばかりで、炭水化物は
手に入りにくかったかもしれませんね。
ブドウ糖が何かから作られているはずだとすると、
蛋白質から作られるのかもしれません」
私「人間を含む哺乳類は脂肪からブドウ糖を作ることはできません。
しかし、蛋白質からは、ブドウ糖を作り出すしくみがあることが
分かっていて、そのしくみは『糖新生』と名付けられています」
患者さん「蛋白質から作り出されるしくみも分かっているのですね。
しかし、穀物を全く摂らなくても、ブドウ糖ができるならば、
『脳がエネルギー不足にならないように、
朝食にブドウ糖の原料である穀物を食べる』、
必要はないことになりませんか?」
私「はい。必要はありません。
例えば、朝食を食べない子どもが朝礼で倒れる、
それは脳にブドウ糖が供給されないことが原因である、といわれています。
しかし、朝礼で倒れるという結果は、
夜更かしが原因で、自律神経のはたらきが悪くなって、
心臓から脳に血液が運ばれなくなることにより起こります。
一方、夜更かしをすると(夜更かしが原因で)、朝遅くまで寝ているし、
食欲もないので、朝食抜きという結果になりやすい、ということなのです」
患者さん「夜更かしという共通の原因で、
朝礼で倒れる、という結果と、
朝食が食べられない、という結果が
別々に現われる、ということでしょうか?」
私「そうです。
これについても、統計を取ると、
『朝食抜きの子どものほうが朝礼で倒れやすい』
という傾向が現われてきます。
しかし、それは、朝食を抜くと朝礼で倒れる、という因果関係
(原因と結果の関係)を表しているわけではありません」
患者さん「そのことを証明する方法はありますか?」
私「調査した子どもに夜更かしを止めてもらったら、
朝食を食べている子どもも食べていない子どもも、
朝礼で倒れなくなった、という調査結果がもしあれば、
倒れる原因は朝食抜きでない、ことが最も明らかになるでしょう。
就眠時刻と朝食抜きの間と、就眠時刻と朝礼で倒れることの間と、
どちらにも一定の傾向(相関関係)があることが分かれば、
朝食抜きが倒れる原因でないことの可能性を示すことにはなります。
しかし、証明力としては大幅に弱くなります」
患者さん「なぜ、強い証明力のある調査が行われないのでしょうか?」
私「お金と時間の問題です。
調査対象の子どもたち全員に夜更かしをしないよう指導するのには
大きな手間がかかり、朝礼で何人倒れたかというデータを集めるには
長い時間が掛かります」
患者さん「確かに大変そうですね。では、
『朝食を食べない子どもの成績が悪い』
といわれているのは、どうなのでしょう」
私「朝礼のときと同じで、隠れた共通の原因があると考えています。
ただ、これも証明力の強い調査をするのは難しいでしょう。
また、『朝食を摂らせるようにしたら成績が上がった』
という調査があるようですが、
同じ手間・費用を掛けるのであれば、直接学科の指導をしたほうが
成績が上がると思います。
ダイエット・食事療法でも少しの(あるいは全くない)
効果を得るために手間が掛けられすぎています。
夕食を減らすのは、昼食を減らすよりもつらいという人が多いですが、
それで昼食を同じカロリー減らしたときよりも多く体重が減る
ということはありません」
患者さん「ダイエットの調査も、実行も『費用と効果』の問題だと」
私「はい、そのとおりです。
今回の最後に言っておきたいことは、
夜更かしで倒れた子どもが寝かせておくだけで回復する、のとは違い、
糖尿病の薬が効きすぎて起こる低血糖発作は、
重篤なときには、意識消失や全身のけいれんなどの症状が出て、
注射や点滴でブドウ糖の投与が必要なものだということです。
朝食を抜いても、低血糖発作が起こることはありません」
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