言葉という「記号」をうまく使えば、食欲やエネルギー消費を増やす薬の研究をしなくても、生活習慣病にかかる医療費を大幅に減らすことができる(言語も薬も、わずかな量で大きな作用をする記号だという点では同じ)

ホルモン、空腹感、言葉。
これらには共通して「記号 (symbol シンボル)」という言葉で表される働きがあります。
記号とは、

 わずかな大きさや量にもかかわらず、
 大きな働きをする
 物体や物質や情報

のことです。
そして、その記号が使われているものの形や性質(例えば体重)を大きく左右します。

いくつか例をあげましょう。
江戸時代に大坂と江戸の間で「為替手形」だけを往復させ、それで小判を受け渡しすることにより、安全に送金するシステムができていました。
この為替手形が記号です。軽くて小さくても、重くて価値のある千両箱を送ったり受け取ったりする働きができていたからです。

また、鉄道で使われる信号機は、わずかな電力で灯される青や赤の信号によって、大きくて重い電車を止める働きをします。ですから、信号(機)というのも記号です。

記号が、それが使われているものの性質を決めるというのは、
為替手形が届くのが遅すぎたり、信号機のシステムがしばしば故障したりすることを考えると分かります。
これら為替手形や鉄道の重要な性質・性能のほとんどは、記号が届くスピードや信頼性で決まっています。

人体で記号の働きをしているものの1つがホルモンです。
痩せ薬として有名なあるホルモンは数十μg(1gの数万分の1)でカロリー消費を増やし、数キログラムの体重減少(と副作用)をもたらします。このホルモンも、わずかな量で人間の体に大きな作用をもたらすので、記号です。

人体で働き、体重を決める働きをするもう1つの記号は、空腹感です。
空腹感や、ものを食べたときの快感は、脳の中で微量の神経伝達物質が出ることによって起こることがわかっています。この物質もわずかな量で大量のカロリーを摂らせることがあるので、記号と考えることができます。
(ただし、前回説明したように、この空腹という記号を無視して数時間何も食べなくても、失神するなど困ったことは起こりません。)

現在、生活習慣病・メタボシックシンドロームを治すために行われている研究では、上に述べたカロリー消費を増やすホルモンや、食欲を抑える微量物質=薬(という記号)を調べるために多くの研究者の努力とお金が払われています(右欄の書籍p.6)。しかし、現在までに実用化された薬で、効果が確実で安心して使えるものはないので、医師も積極的に使いません

さて、言葉とそれによって伝えられる知識も、(声を出したり、画面や紙に表示したりする)わずかなエネルギー量で、人間の行動を変えて体重を増減させるので、記号ということができます。

今まで、言葉という記号で伝えられていた知識、特に空腹感蛋白質食事時刻についての常識に誤りがあったために、体重はむしろ増える方向に働いていました。
しかし、この誤りを正せば、体重を減らして、高血圧脂質異常症糖尿病などの生活習慣病を治す力が言葉にはあります。
(処方せんに薬の名前という記号を書く代わりに、
 このブログの初めから述べてきた正しい知識という記号を伝えることで
 患者さんを治してきました)

人間以外の動物でも、活動に必要なエネルギーを確保するために、えさの存在を感知して捕食したり、個体間で餌のありかを伝えたり、捕食=運動時にアドレナリンなどのホルモンでカロリー消費を変化させたりする記号のシステムは持っています。

しかし、人間は言葉という記号を使って
(このブログと右欄の書籍で述べてきた)正しい知識を広めていくことができるので、
エネルギー消費や空腹を制御しているしくみ=記号を研究しなくても
体重を減らす能力を持っています。

その能力を使えば、今生活習慣病に使われている研究者の努力や研究費と、
治療に要する医療費を、
他にもっと必要な分野に振り向けることができるのです。

コメント / トラックバック5件

  1. […] 体の中である物質が1日に合成される量は、 ホルモンなら数mg、コレ […]

  2. taijuuh より:

    H.matusima さん

    体格から拝見して、現在の食事から1日当たり300~500kcalくらいを減らして、体重がゆっくり減るのを待つのがよろしいかと思います。
    (拙著「メタボ氏のための体重方程式」p.142をご覧ください。
    また、面倒なカロリー計算をせずに体重を減らせる方法… の記事がご参考になると思います)

    一つ気に掛かるのは、

    > 特に炭水化物の取りすぎを是正

    と書いておられたことです。
    それは、上記のカロリーを炭水化物だけから減らすと、
    「蛋白質が多すぎるバランスの悪い食事(つまりおかずの摂り過ぎ)」
    になることがあるためです。

    蛋白質はここまで減らせる(蛋白質必要量の正しい解釈) の記事をご覧いただいたうえで、「おかずの摂り過ぎ」に思い当たることがあれば、
    魚や大豆製品を含めた蛋白質も減らす対象に入れていただきたいと思います。

    よろしくお願いします。

  3. H.matusima より:

    早々の御返事有り難う御座います。早速食事の内容を調べ高カロリーを控え野菜食を主体とした、運動に相応した食事に心がけ間食を考え度く思いました、特に炭水化物の取りすぎを是正する様頑張ります。

  4. taijuuh より:

    H.matusima さん
    いつも、ブログランキングのクリックをありがとうございます。
    おかげさまで、少しずつ順位も上がってきました。

    さて、「運動して検査値が改善するかどうか」というお尋ねですが、
    結論から言うとあまりお勧めできません。

    というのは、このブログの記事「基礎代謝(じっとしていても使われるカロリー)で説明できる常識の誤り・その2は、『運動しないと体重は減らない』
    で述べたように、運動で消費するカロリーは少なく、20分の歩行で増えるカロリーは80kcalくらいで、全消費カロリーの4%にしかなりません。

    これに対して、「減らしやすい食事」から「減らしやすい食品」を減らせば、全摂取カロリーの2割、400kcalを減らすことは決して難しくありません。

    体重は、消費カロリーの増加した割合、摂取カロリーの減らした割合に応じて減りますので、食事のカロリーを減らした方が確実に体重が減ることになります。

    お尋ねの検査値以外に、血圧や尿酸値も、
    体重が多く減るほど改善する可能性が高くなりますから、
    まず、食事のカロリーを減らすことから始めたほうがよろしいと思います。

    このコメント欄で、「具体的にどう食事のカロリーを減らすか」などのご質問をいただくときは、現在の食事や生活リズムのあらましを教えていただくとお答えしやすくなります。

    よろしくお願いします。

  5. H.matusima より:

    何時もHDLコレステロールが32と少なく中性脂肪が198と高く、ヘモグロビンA1Cも5.7%です、毎朝食後20分程軽い散歩してはと思っていますが如何なものでしょうか?


コメントは承認制ですが、できるだけ返信するようにしています。
高血圧・脂質異常症・糖尿病など生活習慣病についての質問も
受け付けています