ダイエット・食事療法を実行するときに、平均という考え方ががおおいに役立ちます。
平均値だけで、ダイエットに効果がない方法が分かる
まず、物事を大まかに把握するときに平均値は不可欠な数値です。
ダイエットの分野でも、平均値を見るだけで、次のことが直ちに分かります。
・ カロリーの吸収率はどのような条件でも平均するとほぼ100% [1]だから、
夕食が遅くても、吸収率が高まって太ることはない
(早い時刻に摂っても体重は減らない)
・ 人間は、じっとしていても使うカロリー(基礎代謝)が
平均すると全消費カロリーの6~8割を占めていて、運動をしてもあまり増えない
(毎日30分歩きつづけても体重は5%以上減ることはない)
・ アルコールで摂っているカロリーは多くない [2]
(ビール350mlをやめても平均すると体重が7%以上減ることはない)
これらの平均値を実行前に知っていれば、希望する体重減少量が得られるかが分かり、
実行に値するかどうかが判断できるはずです。
(ただ、実際には、その平均値を初めから知ろうとしない人や、
知ったあとも、つらいことを続けることに意味があるという「努力主義」 [2]の人がいて、
ときどき説得に苦労しています)
摂取カロリーの変動も平均すると一定になる
もう一つ、一定期間の平均を取ると、
食事量をおおよそ知ることができることも、ダイエットに役立ちます。
これは、変動があっても、その人の食事量は一定範囲に納まっていることを示しており、
これによって面倒なカロリー計算をしなくても体重を減らせる [3]ようになるのです。
食品の100g当たりのカロリーがいろいろでも、
暴飲暴食の日があったり、
栄養が偏らないようにといろいろな食品を食べたり、
体重を気にして食べ過ぎに注意しても、
体重の変動を、健康診断の結果など年単位で見ると、驚くほど一定です。
(だから困るのですが、ここは「一定である」ことに注目してください)
これは、一定期間の摂取カロリーが平均すると一定であることによります。
ですから、大切なのは厳密にカロリー計算することではなく、
食べる量を今までよりもしっかり減らすことです。
そうすることにより、カロリーが減って体重が減っていきますし、
それ以外の方法ではなかなか体重が減りません。
摂取カロリーは平均だけでなく個性も考える
さて、多くの場面では有用な平均値も、
男性、女性の摂取カロリーがそれぞれ○○○○kcal、○○○○kcal、
というだけでは、
大まか過ぎて、ダイエットをしようとするほとんどの人の役に立ちません [4]。
(体重が150kgあるような人の目安にはなるのですが…)
それは、男性なら、身長が180cmでも150cmでも一律に、体重は70kgがいい、
と言っているようなものです。
ですから、カロリー計算をするダイエット・食事療法では、
身長から求めた標準体重や活動性(運動量)で、
できるだけ一人ひとりの個性に合わせて摂取カロリーを決める [5]ようにしています。
(このブログ・サイトでは、体重の割に体脂肪が多い隠れ肥満や、
病気との関連も考えて、体脂肪率も取り入れて計算します [6])
「今の食事から減らすカロリー」なら太りやすい体質でも体重が減る
ところが、この方法で計算した摂取カロリーのとおりに、食べる物すべての
「カロリー計算をしても体重が減らない [4]」
人がいて、ウェブ検索でこのブログにもやってきます。
厳密にカロリー計算をするのはかなり面倒なのに、
何か月たっても思うように体重が減らない…
だけならいいのですが、かえって増えてきたという患者さんまでいます。
これは、カロリー計算している以外に、間食や暴飲暴食が多くて余分なカロリーを摂っているからではありません [7]。(そのようなカロリーは一定期間で見ると全摂取カロリーの5~10%くらいの人が多いからです)
原因は、消費カロリーが生まれつき少ない個性、すなわち、「太りやすい体質 [8]」にあります。
(専門的には、基礎代謝基準値=体重当たりの基礎代謝が少ない、といいます)
これを解決するのが、「今の食事から減らすカロリー [9]」という考え方で、
太りやすい体質の人でも、同じ体重を目標にするなら、
減らすべきカロリーはほぼ同じでよいことが分かっています。
食生活の個性を考えると楽に体重を減らすことができる
さらに、個性を考えなければならないのが、
「減らすカロリー」を具体的に実行するときです。
日本人全体としてみると、炭水化物、脂肪、蛋白質は、ほぼ理想的といわれる比率で摂られています。(図表…67 エネルギーの栄養素別構成比の年次推移(20歳以上) [10])
ところが、患者さん一人ひとりが食べた物を調べると、
ご飯やパンなどの炭水化物や油ものは少ないにもかかわらず、
肉・魚・大豆など蛋白質でカロリーを摂り過ぎて、肥満になっている [11]人がいると思えば、
炭水化物の摂り過ぎで、蛋白質の必要量が摂れていない人がいる [12]など、
現代人の食生活は多様化し、個性に富んでいることが実感できます。
一方、あまり知られていませんが、
人間には、蛋白質からブドウ糖や脂肪を作ることができ、
いろいろな栄養比率に対応する能力があります [13]。
ですから、現在摂っている食事内容を調べれば、
その人の生活環境 [14]や食品の好み [15]に応じてカロリーを減らすことができ、
途中で挫折するのを防ぐ [16]ことができます。
(念押ししますが、「理想的な栄養素の摂取比率=PFCバランス」に合わせても
総カロリーを減らさなければ体重は減りません。ですから、食事内容を調べるのは、
その人の個性を尊重して総カロリーを減らすためで、
一律に「理想的な摂取比率」に合わせてもらうためではありません。)
結論:平均と個性をともに押さえると、確実、容易に体重が減らせる
この結論は陳腐ですが、この記事全体の内容は、そうではないはずです。
平均値という数字を見ると、
食べる時刻の変更 [1]や運動 [17]では体重が減らないこと、
太りやすい体質があっても今の食事から必要なカロリーを減らせば体重が減る [8]こと
が分かり、安心してダイエット・食事療法に取り組んでもらえるからです。
一方、個性を見ると、
人間には蛋白質からブドウ糖を作る能力がある [18]ことから
食生活の個性に合わせてカロリーを減らしてもよい [19]こと
が導かれるので、実行が楽になります。
科学全般について、「オッカムの剃刀」といって、
現実を説明できる限り、構築するモデルは単純な方がよい、
という指針があります。(統計学では、「赤池の情報量規準」や「ベイズの情報量規準」という理論がそれに相当します)
この記事に書いてある以上に複雑で細かいことを実行しても、
面倒なだけで、望む結果が得られないのは、そのよい例です。