この1年くらいの間に、ご飯や麺類などの炭水化物を減らしている、
という生活習慣病の患者さんによく会います。
その動きについて、先日、肥満学会 [1]での発表 [2]の際に、
肥満~生活習慣病の治療や指導に携わる各種の専門家と話し合う機会がありました。
医師の間では、生活習慣病を治すために炭水化物(=糖質)を減らすという
「糖質制限食 [3]」が興味の対象になっていて、患者さんたちと歩調が合っていたようです。
その理由は、医師が栄養や食事については、真の専門家ではなく、
患者さんとあまり変わらないか、少し先に進んでいるくらいの知識しかないからです。
もともと、医学部医学科には、栄養や運動を中心に学ぶ科目はなく、試験もありません。
(私が医学部にいたころには、医学部には医師を養成する医学科しかなかったが、
近頃「医学部保健衛生学科看護学専攻卒業」みたいな学歴の人もいて紛らわしいので、
「医学科」と断らねばなりません)
高血圧・脂質異常症・糖尿病など生活習慣病の患者さんに食事や栄養について指導するのは、病院の管理栄養士の仕事で、医師は管理栄養士に「指示」するだけです。
(ですから「忙しい」医師に具体的な食事の質問はしないでください)
そのような、栄養についての基礎的な知識がないところに、海外からの
「糖質を減らすと糖尿病や肥満が改善する」
という研究の情報が入ってくると、結果だけを見て興味を持ってしまうことになります。
一方、管理栄養士たちは、糖質制限食を嫌っていました。
というのは、彼らが今まで勉強してきた
「どの栄養素も、欠けることがないように、バランスよく」
という根本課題に真っ向から反する方法だからでしょう。
これで病気が治るなら、彼らはいてもいなくても同じだということで、
存在意義を問われかねないからかもしれません。
もちろん、それは彼らの過剰反応で(私の受け取り方が過剰なのかもしれませんが)
これからの栄養指導の主流がどう変わっていこうと、
実際に栄養について患者さんを指導できる基礎的・専門的な知識を備えているのは、
彼らをおいてありません。
また、近頃は、メタボ健診の後の保健指導(1 [4]・2 [5]・3 [6])を
保健師(看護師+衛生知識の指導が仕事)も行うことになっています。
彼らは、患者さんでない一般の人たちにも知識の普及を進めていくのが仕事で、
先端の知識や深く掘り下げた知識よりも、
基本的・伝統的なところを押さえようという傾向があるので、
糖質制限食は聞いたことがあるけど、自分で指導するようになるまでにはかなり時間があると思っているようでした。
このように、職種によって(専門でない人も含めて)差異はあっても、
「肥満・生活習慣病には、炭水化物=糖質を減らす」
という知識がかなり行き渡り、
「カロリーが高い脂肪やアルコールを減らそう」
と言っていた数年前とは状況が変わってきています。
しかし、このブログで繰り返し述べていて、
学会発表 [2]で訴える目的でもあった
蛋白質の摂り過ぎ [7]による肥満
(くどいですが、「糖質の摂り過ぎによる肥満」ではありません)
については、
「トンデモ [8]???」
という反応しか感じられませんでした。
この点では、私の受け取り方は過剰でなかったはずです。というのは、
「蛋白質摂り過ぎ」や「蛋白質が肥満の原因」でウェブ検索を掛けても、
このブログの記事(1 [9]・2 [10])以外は、摂り過ぎが腎臓に負担を掛けたり、
肥満の原因に「なることもある」といった調子の記事ばかりだからです。
(あと、トンデモ記事も多いです)
この
「蛋白質が肥満の原因であることなど思いもよらない人が大多数」
という状況が今後どのようなきっかけで変わっていくのか、
やはり、海外の研究でしきりに取り上げられるまで待つことになるのか、
今のところは、ごまめの歯ぎしり、切歯扼腕で見ていくしかありません。