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空腹感・食欲は生存という目的のために存在する手段、という誤った見方を正せば、その扱いが楽になる。(因果論に基づいた、食欲は物質や脳の回路の働きでおこる、という考えが正しい)

空腹感を抑える薬がほしいという患者さんがいます。

食欲を抑制する薬がないわけではありませんが、副作用があったり、習慣性があったりで、積極的に使おうという医師は多くありません。

また、空腹感が起こりにくいようにするためのいろいろな方法は、かえって挫折の原因になる [1]ので、むしろ何もしないほうがよい [2]、ということは別の記事で述べました。(青色の文字をクリックしてください)

ただ、その要望が出る背景には、空腹そのものによるつらさではなく、

  「空腹感を放置すると、脳が使うエネルギーが不足して、ひどくなると意識がなくなる」

といった、誤った話 [3]からくる恐怖があるはずです。

今回は、この誤った話が受け入れられる、さらなる背景、すなわち、

  「人間の体は、生きていくために不都合なことが起こらないように、
   空腹など、不快な感覚という警告が出るようにうまくできている

という話も誤り、という話をします。
このような、

  「生きていくという目的を実現するために、食欲という手段(本能)が用意されている」

ということを一般化した、

  「目的のための手段が存在する」、

という考え方を、目的論といいます。
そこからは、しばしば

  「その警告に従わないでいると、失神などの困ったことが起きる」

という(食欲という手段を過大視した、誤った)方向に考えが向かってしまいます。

この種の話(で誤っているもの)として

  「このところあまり野菜を食べていないから、体が野菜を欲している」

というものがあります。これは、「うまくできた」人間の体には、

  生存(という目的)に必要な栄養が摂れるような欲(という手段)が存在する、

という目的論から出ています。これが誤っているのは、

  ビタミン不足で起こった大航海時代の壊血病や明治時代の脚気が、
  解決までに長い年月を要したこと
  (体が野菜を欲するようにできているのならこれらの病気は起こるはずがない)、

を見ると分かります。

実際は、ビタミンなどの栄養が必要、と知っているから、食べたいような気がするだけ [4]、というのが正しいのです。

(同じように、
 「蛋白質ばかり摂っていると、脳が糖質(ブドウ糖)を欲して、
 甘いものが無性に食べたくなる」
 という話が誤りであるのは、モンゴルやイヌイットの人たちが
 蛋白質しか摂らなくても元気で生活している [5]ことで分かります)

 また、同じ目的論の考え方から出る、

  「血圧が高いときに、
   生きていくために不都合な脳卒中を起こさないという目的に応じて、
   めまいや頭痛などの不快な症状という警告が起こるという手段が、
   人間の体に準備されている(はず)」、

という話からは、

  「警告がなければ、不都合なことは起こらないのだから、放っておいてよい」

という(これも誤った)結論が導かれます。

実際に高血圧で治療を受けている人のほとんどは、そのような症状がありません。

にもかかわらず、薬を飲んだ方がよいのは、
血圧の薬を飲んでいる人の方が脳卒中や心筋梗塞が起こりにくい [6]ことが確かめられているからです。

別の目的論の例として、環境への適応、たとえば、

  ホッキョクグマは極地に適応して、白くて長い毛を持つようになった、

という見方があります。これは、

  極地で暮らすという目的のために白くて長い毛という手段を発達させた

という見方をしているので目的論に沿った(誤った)見方です。

現在、種の体が環境に適応したと見えるのは、

  ホッキョクグマやそのほかのクマの共通の先祖から、
  突然変異で白くて長い毛をもつ種類が生じ、
  その体に適した寒い地域に移動してそこで暮らすようになった。
  その後、環境の変動がゆっくり起こった時には、
  何世代もかけてその体に適した地域に移動できたこともある。
  また、今起こっているような急な環境の変化で、
  えさがなくなったり、子育てができなくなったりして、
  なすすべもなく絶滅したこともある。

という話で説明されています。

また、生物学の技術を使って、薬を作る微生物などを見つけ出すときにも、
目的の性質を持った(例えばコレステロールを下げる物質を作る)微生物を得るために、目的の(克服すべきコレステロール濃度が高い)環境で培養することはしません。
すでに存在する多数の微生物から、あるいは、偶然の突然変異を起こさせる放射線を当てて、目的の性質をもった微生物を選ぶという手法を取ります。

  遺伝子は環境に適応しない
 (遺伝子に、環境に適応するような突然変異を起こさせることはできない)

ことが分かっているからです。

ダーウィンが突然変異と適者生存・自然淘汰という進化論の考えを出してからもう100数十年たっています。
(それまでは、創造主が、生存という目的のために、
 それに適した体という手段を作ったと考えられていました)
にもかかわらず、

  「遺伝子が、環境から突然変異の方向を左右される」

という誤った考えを基にした、

  「ホッキョクグマが環境に適応して長い毛を持っている」

という言い方が今も残っているのは、残念なことです。

「環境への適応」という言葉は、
種や個体の行動様式の変化に限って使われるべきで、
この言葉を遺伝子の突然変異による体の構造の変化に使うべきではありません。

このように、

  突然変異と自然淘汰という原で、
  その結、環境に適した種が生き残って私たちの周りにいる、

という見方・考え方を、

  因果論といいます。

これは、目的論とは反対の考え方です。

生物学・医学の分野では、近代まで、観察された事実を、目的のために(創造主が作った)手段があるという目的論で説明していましたが、

この因果論の考え方が取り入れられることにより、

  「何が原で、この結が起こったか?」

と探求が進み、現在、

  コレステロールを下げる薬で心筋梗塞の予防ができる

などの形でその恩恵を受けられるようになったのです。

この記事を書くきっかけになった空腹感や食欲を、因果論の考え方で見ると、

 ・ 食欲は、それを起こさせたり抑えたりする物質という原因の結果として生じる、

 ・ 突然変異で食欲のない個体が生まれれば、自分から食べることをしないので、
   子孫を残してこられなかったはず。つまり、
   食欲とは、人間の感覚のうちで、これがないと種の保存ができなくなるものの1つ
   (で、個体の保存のためにあるのではない)

ということになります。

目的論で、

 ・ 食欲は、(創造主がうまく作った)生存の目的のための手段。
   したがって、これに違(たが)うことをすると生存が危なくなる

と考えるより、食欲が持つ意味が限定され、
それによって空腹感が怖くなくなっていると思います。

空腹感・食欲についての正しい知識 [2]があれば、それに支配されて食事療法・ダイエットが挫折 [1]することはありません。

科学の歴史とは、先人たちが因果論に基づいて、
自然の姿がどうなっているかを一つ一つ確かめてきた積み重ねのことです。

これによって私たちが(目的論から生じてくる)恐怖から自由になっていることを
ありがたく思っています。